メーカー公式:SnowX「SnowPod」の製品ページ

3Dプリンタは持っています。でも自分にとっては、まだ形を確かめるためのモックアップの道具です。金属で欲しかったものを樹脂で作っても、そこで完成とは思えないし、積層痕も気になる。そのあたりはチタンのキーキャップの記事にも書きました。

だから、金属そのもので形を作れる小型の金属3Dプリンタは気になります。樹脂の3Dプリンタで作っているのと同じようなものが金属で作れるなら、それはありだなと。特に網目のようなメッシュは、CNCだと作りにくい形です。

ただ正直に言うと、CNCがあれば、自分の作りたいものはだいたい足ります。それでも欲しくなるとしたら、CNCで出た切りくずから、このプリンタの材料を自分で用意できる場合です。それができたら、かなり欲しいです!

今回調べたSnowPodは、316Lステンレスの粉末をカートリッジで入れて造形する機械です。SnowX公式

SnowPodは未購入・未使用です。2026年9月22日に調べ、10月3日に再確認した公開資料による購入前の調査で、数値はメーカー・材料メーカー・研究者の公表値です。SnowPodで同じ結果が出るかは確かめていません。

リングは30分、歯車は6時間

SnowXは、次の作例に時間と材料使用量を載せています。どのくらいの規模のものが作れるのか、つかむのに便利です。

公式作例掲載時間掲載された材料使用量
透かし模様のリング0.5時間3.1g
透かし模様のブレスレット2時間29.85g
歯車6時間167.56g

出典:SnowX公式「Professional Parts. Minimal Input.」。いずれもメーカーの掲載値です。材料使用量にサポートや回収できない粉末が入っているか、時間に準備・冷却・仕上げが入っているかは書かれていません。なので、リングが30分で身につけられる状態になる、とまでは読めません。

木の上に置かれた、細かな透かし模様の金属製ブレスレット2点。
公式ギャラリーのブレスレット作例。細かな透かし模様を確認できますが、メーカーは掲載品への後加工を明記しています。写真の光沢が造形だけで得られるとは限りません。
画像引用:SnowX。画像の加工なし。

透かし模様のリングやブレスレットは、まさにCNCでは作りにくい網目の形です。自分が金属3Dプリンタに期待しているのは、こういう形です。

造形範囲は幅80×奥行80×高さ100mm。大きなケースを一体で作る機械ではなく、この中に収まる小物や部品を作るサイズです。SnowX公式

発売はまだで、メーカーが執筆した紹介記事(2026年9月16日公開の広告記事)では、Kickstarterの開始予定を2026年第4四半期としています。SnowXによる製品紹介

切りくずは、そのままでは入れられない

作れる形には期待が持てました。次に気になるのは、その材料をどう用意するかです。自分の場合は、CNCの切りくずが使えるかどうか。

C500の記事にも書きましたが、高専で機械を使っていたころ、切りくずは結構嫌でした。危ないし、汚れるし、掃除も面倒。それが次の材料に戻るなら、見方がだいぶ変わります。

先に結論を書くと、SnowPodは切りくずを直接入れて再生する製品としては案内されていません。SnowX公式 理由は、材料の粉末の形にあります。

粉末は、粒の大きさや形までそろえてある

SnowPodは、薄く敷いた金属粉末の必要なところだけをレーザーで溶かし、層を重ねて形にします。この方式をSLMといいます。NISTによる積層造形の説明

金属粉末の表面でレーザーの照射点が明るく光り、周囲に火花が伸びている。
金属粉末の必要な部分をレーザーで溶かす工程の参考写真。SnowPodの画像ではなく、同機の指定材料や造形結果を示すものでもありません。
写真:Beamie Young / NIST(利用条件)。画像の加工なし。NISTが無保証で公開する資料です。

粉末を薄く敷く工程があるので、材料は成分だけでなく、粒の大きさや形、流れやすさまでそろえる必要があります。NISTも、粒径・形状・化学組成などの評価を、造形材料の品質管理に位置づけています。NIST・粉末材料の評価

たとえば大同特殊鋼の造形用SUS316L粉末は、SLM向けで25〜53µm。溶かした金属をガスで細かな液滴にする「ガスアトマイズ」という方法で、丸い粒にして供給されています。大同特殊鋼・SUS316L

削ったままの切りくずは、形も大きさもばらばらです。Carpenterの316Lデータシートにも、316Lを削ると切りくずが粘り強く、長くつながりやすいとあります。PowderRange 316Lデータシート・PDF 同じ316Lでも、造形用の粉末とは別物なんですよね。

粉末の粒径と製法をもう少し詳しく

大同特殊鋼のSUS316L粉末には、SLM向け25〜53µmのほかに、別方式のDED向け53〜150µmという製品もあります。どちらもガスアトマイズで作った球状の粉末です。大同特殊鋼・SUS316L

この粒径はSnowPodの指定値ではありません。「316Lという名前が同じなら入れ替えられる」とは考えないほうがよさそうだ、という参考です。

粉末工場を通せば、作り直せる

切りくずから造形用の粉末を作り直す事業はあります。米国の6K Additiveは、品質の証明があるCNCの切削くず、研削くず、使用済み粉末、造形失敗品、サポート材などを原料に、球状の粉末を作ると説明しています。製品には316Lもあります。6K Additive・会社概要/6K Additive・粉末製品

スクラップや使用済み粉末の受け入れも案内しています。6K Additive・原料回収の案内

切りくずを集める → 造形用の粉末に作り直して品質を管理する → 装置に合う材料として使う。 この真ん中を担うのが材料メーカーです。

6K Additiveの作り方

UniMelt®というマイクロ波プラズマの工程で粉を球状にしています。6K Additive・会社概要 あわせて、成分や粉末特性の検査、ロット管理を行っています。6K Additive・粉末製品と製造

切りくずを使い直すという発想自体は、夢物語ではないんです。ただ、6Kが原料に挙げているのは品質の証明がある切りくずです。日本の個人が少しの切りくずを送って、SnowPod用の粉末にしてもらえるかまでは分かりません。再生した粉末が世の中にあることと、自宅で材料を循環できることは、別の話です。

環境面ではCNCより有利?

回収率だけでは、CNCより有利とは言えません。粉末を作る工程、造形の電力やガス、後加工、輸送まで含めて、同じものを作る条件で比べないと判断できないからです。今回見た資料には、SnowPodでその比較をしたデータはありませんでした。

材料は316L粉末。値段はどれくらい?

切りくずがそのまま使えない以上、当面は粉末を買うことになります。本体もたぶん安くはないはずなので、材料を安くそろえられるかが肝だと思っています。

ステンレスだけ。チタンは使えない

SnowPodで使える材料は316Lというステンレスです。材料メーカーは、さびにくさと粘り強さ(耐食性と靱性)を特長に挙げていますが、これは材料の説明で、SnowPodで作った部品の試験結果ではありません。PowderRange 316Lデータシート・PDF

自分がいちばん作りたいのはチタンのキーキャップなので、それはSnowPodでは作れないことになります。アルミで軽い部品を作りたい人にも、316L対応だけでは応えられません。ステンレスで作りたいものがあるかどうかで考える機種です。

316Lの組成

316Lは、炭素の少ないオーステナイト系ステンレスです。たとえばCarpenter Additiveの316L粉末は、鉄が主成分で、クロム16〜18%、ニッケル10〜14%、モリブデン2〜3%という組成範囲です。PowderRange 316Lデータシート・PDF

市販の粉末は、10kgで670米ドルの例

316L粉末は、国内外で手に入ります。調べた販売・供給例はこちらです。

供給元公開されている粉末・販売単位価格・調達条件
大同特殊鋼SUS316L。SLM向け25〜53µmなど小ロット対応を案内。具体的な最小量・単価・個人への販売条件は要確認
Additive PlusCarpenter PowderRange 316L、15〜45µm、10kgページ表示670米ドル(9月22日は665米ドル)。日本への配送・税・送料は別途確認が必要
UPM Advanced SolutionsPowderRange 316L、レーザー粉末床方式(LPBF)向け15〜45µm、10kgボトル価格はログイン後の表示

出典:大同特殊鋼、Additive Plusの販売ページ、UPMの販売ページ。2026年9月22日確認、10月3日に再確認。どれもSnowPodで使えると確認した商品ではありません。

10kgで670米ドルなら、1kgあたり67米ドル。販売ページにも、価格は相場や在庫に合わせて変わるとあります。1kgだけ同じ単価で買えるわけでもないので、小さなリングを作りたいだけでも、最初に買う量と支払額は別に考えておく必要があります。

SnowPodで使えるかは、まだ分からない

気になるのがSnowPodのカートリッジです。市販の粉末を自分で詰められるのか、純正の充填品を交換するのか。他社の材料を使うときに、決められた粉末規格や造形設定、保証の条件があるのか。ここは公開資料では分かりませんでした。

そのため、市販価格をそのままSnowPodの材料費にはできません。日本の個人が補充材を買い続けられるルートも、確認できていません。

リングの「3.1g」がどこまでの重さなのかも分からないので、この数字に粉末の単価を掛けて原価にするのはやめておきます。1個あたりの費用を出すには、純正材料の価格と容量、部品・サポート・回収できなかった粉末の内訳が要ります。

余った粉末を、どこまで使い直せるか

粉末を買うしかないなら、次に効いてくるのは、一度買った粉末をどれだけ無駄なく使えるかです。毎回全部捨てるなら、材料費はかなり重くなります。SnowPodは、造形で溶かさずに残った粉末を回収する仕組みを持っていて、1サイクルあたり90%超の回収率をうたっています。SnowX公式・粉末回収

回収できるのは溶けなかった粉末だけです。できあがった作品やサポートを粉末に戻せるわけではありません。メーカーの紹介記事にも形によって回収効率が変わるとあるので、回収率の分母や試験した形、繰り返し回数まで知りたいです。SnowXによる回収の説明

では、使い直した粉末で部品の品質は保てるのか。研究を二つ見つけました。

使い直した実績はあるけれど、回収した粉を新品と同じように扱えるわけではない、ということです。2017年の研究も、ふるい処理と装置の管理をしたうえでの結果なので、SnowPodでも12回使えるという話にはなりません。 SnowPodで知りたいのは、ふるい方、新品との混ぜ方、使用履歴の管理、捨てる基準までです。

二つの研究をもう少し詳しく

2017年の研究では、Renishaw AM250で同じロットの316L粉末500kgを使い、12回の再使用サイクル・31回の造形を追いかけています。粉末はサイクルごとにふるいにかけられ、粉末試料380件、引張試験片118本などを調べました。強度や伸びが低い試験片もあり、著者らは装置や工程のばらつきを原因に挙げています。

2024年の研究は、電子顕微鏡とX線光電子分光で粉末の表面を調べたものです。研究者が公開した要旨から読める範囲なので、強度がどれだけ落ちるか、何回まで使えるかまでは分かりません。

造形後の仕上げと、部品としての性能

材料のめどが立っても、欲しいものが手に入るかは、出てきた部品しだいです。

自分が316Lで作ってみたいのは、Apple Watchのバンドやネジです。樹脂の3Dプリンタでも作れますが、個人的には金属の質感が好きで、ネジのような部品は強度も気になっていました。金属なら、そこは期待できます。

一方で、層を積み重ねて作る仕組みは同じです。フィラメントを積む樹脂の3Dプリンタと比べて、積層痕がどれくらい変わるのかは不安なところです。

公式の作例も、後加工をしている

SnowXは公式の作例に、展示用の後加工をしたと注記しています。サポートを外すのにも、ペンチなどの基本的な工具をすすめています。SnowX公式・作例とサポートの注記

3本の筒状の金属部品が、細い支柱を介して長方形のプレートにつながっている。
部品とプレートの間に細いサポートが見える公式作例。欲しい形のほかに、支えを取り除く工程があることが分かります。未加工の取り出し直後を示す画像とは確認できていません。
画像引用:SnowX。画像の加工なし。

写真だけでは、どこまでがプリンタの出力で、どこからが磨きや追加加工の結果なのかが分かりません。同じ作例の造形直後と仕上げ後を並べて、その間の作業を見せてもらえると、完成までの手間がいちばんよく分かると思います。

精度と強度は、数字の読み方に注意

メーカーが出している積層ピッチ30〜60µmは層の厚さ、レーザースポット約40µmは照射する点の大きさです。どちらも、部品の寸法がどれだけずれるかを表す値ではありません。SnowXによる光学系・積層条件の説明

公式には「寸法精度0.01mm」という表記もあります。ただ、どんな形をどこで測ったかを示した検査データは見つかりませんでした。この数字だけで、軸穴やねじが10µm以内に仕上がるとは言えません。SnowX公式・精度表記

強度も、SnowPodで作った部品のデータは見つかりませんでした。ネジやバンドのように力がかかる部品を作りたい自分にとっては、強度を信頼できないと、自分の作業には組み込めません。

強度データにはどんな条件が付くか(他社の例)

Carpenterの316Lデータシートでは、造形後・熱処理前の代表的な引張強さがXY方向703MPa、Z方向655MPa。ASTM E8/E8M-16aに沿って、方向ごと・熱処理条件ごとに最低5本ずつ試験した値です。同じ材料名でも、造形の向きや条件を添えて示されています。PowderRange 316L・PDF、p.5

これはSnowPodの強度ではありません。精度も、造形の向き、後加工の有無、試験した数まで示されて初めて比べられます。

自宅で使うための設備と費用

部品として使えそうでも、家に置いて回せるかは別の話です。SnowPod本体の公称寸法は幅360×奥行360×高さ660mm。ただし、窒素を供給するNitroPodも一緒に使う構成です。NitroPodは、空気から窒素を取り出す周辺機器として紹介されています。SnowXによる本体・NitroPodの説明

木製の作業台の上に置かれたSnowPod本体を正面から示す公式画像。
机上の本体を示す公式の設置イメージ。この一枚から、NitroPodや取り出し・清掃のための場所まで収まるとは判断できません。メーカーは広告画像と実製品の外観等が異なる可能性も注記しています。
画像引用:SnowX。画像の加工なし。

粉末の扱いがいちばん不安

米国NIOSHは、金属粉末3Dプリントで粉末にさらされやすい作業として、手作業での粉末投入、機外でのふるい、粉の除去・移動、フィルター交換などを挙げています。密閉された印刷を見守る作業とは区別されています。同じ資料は、吸い込みや皮膚への接触に加えて、静電気・火災・爆発も危険として挙げています。金属粉末の造形全般の安全資料で、SnowPodを試験した結果ではありません。NIOSH・金属粉末3Dプリントの安全資料、1ページPDF

家で使えるかは、取り出しから掃除までのメーカーの手順、指定粉末の安全データシート、換気・保護具・保守の条件を合わせて判断したいです。密閉カートリッジという説明だけでは、生活空間で扱えるとは言い切れません。

導入の総額は、まだ出せない

費用は、本体とNitroPod、最初の材料、交換用の材料、保守の消耗品、仕上げに使うものまで含めて考えます。今回は本体一式と純正材料の価格が分からず、日本向けの送料や保証もそろっていません。導入にいくらかかるか、CNCや外注より安いかは、まだ言えません。

比べるなら、公式作例の歯車のように対象を一つに決めます。同じ図面、材料、寸法公差、表面仕上げ、個数で、造形から追加加工・検査までの金額を出す。その見積もりを、CNCや外注で同じ部品を仕上げる費用と比べて、やっと方法を選べます。

自分がSnowPodに期待していること

調べてみて、作れる形には期待できる一方、材料・仕上げ・費用はまだ分からないことが多い、というのが今の結論です。

キーキャップ、キーボードの部品、時計、Apple Watchのバンド、ネジ。金属で作りたいものは、まだまだたくさんあります。

SnowPodの購入は今のところ考えていません。でも、強度を信頼できて、自分の作業に組み込めるなら話は変わります。余った粉末を使い直せる仕組みにも、実用的な意味があります。

あとは、材料を安く買い続けられることと、欲しい仕上がりまでの作業と費用が分かること。そしていつか、CNCの切りくずからこのプリンタの材料を用意できるようになったら、そのときは本気で欲しいです!