時計も作りたくて、時計用の精密旋盤まで探しています。CNCはToolDance X1を予約しています。
そこで気になったのが、CNCや3Dプリンタでは作れない部品って、具体的にどれなんだろう? ということ。そして、それはどうやって作るのか。
高専で旋盤は使いました。でも、時計の部品を旋盤でどう作るのかは知りません。卓上旋盤にもいろいろあって、何が違うのかもよく分かっていない。買うなら10万円以内。でも、高い旋盤だと何が違うのかも知りたい。置くなら、たぶん自分の部屋の机です。
そこで、時計師の方の記録、メーカーの公式ページ、オークションの落札結果を調べました。
旋盤はまだ持っていません。資料とメーカーの公式ページをもとにした調査で、価格は2026年10月8日に確認したものです。
先に結論
- CNCや3Dプリンタで作りにくいのは、天真のような「細くて丸い、硬い軸」。材料を回して削る旋盤の出番です。
- 10万円以内だと、新品の卓上旋盤は届きませんでした。日本で定番の機種は、いちばん安くても14.5万円。10万円以内で時計の軸に近いのは、中古の時計旋盤(落札例は6.6万円から)。
- 高い旋盤で変わるのは、精度の保証、ねじ切りや自動送り、重さ、自動化。
- 部屋の机に置けるのは、時計旋盤か10 kg台の卓上旋盤まで。
CNCや3Dプリンタで作りにくい部品は?
いちばん分かりやすいのが、天真(てんしん)です。時計の心臓のてんぷの軸で、両端の細い先(ホゾ)で回っています。
先端の直径が0.06 mm。髪の毛より細い軸を、0.005 mm以内に収める。しかも焼き入れして硬くした鋼です。
時計の部品を、形と道具で分けるとこうなります。
| 部品 | 形 | 主に使う道具 |
|---|---|---|
| 天真(てんぷの軸) | 長さ2 mm前後、先端(ホゾ)は直径0.06 mmほど。焼き入れした鋼 | 旋盤で削って、ホゾを磨く |
| 巻真(りゅうずの軸) | 細い軸。天真より誤差も硬さもゆるい | 旋盤 |
| 歯車の軸、ピン | 細い棒 | 旋盤 |
| 地板・受(部品を載せる板) | 穴と段のある板 | フライス、穴の位置は旋盤で |
| レバー、ばね、針 | 薄い板 | 糸のこで切り出して、やすりで仕上げる |
天真・巻真・ピンのような細くて丸い軸は旋盤、板の部品はフライスや糸のこ。独立時計師の菊野昌宏さんも、そう使い分けています。
3Dプリンタだと?
樹脂を光で固める光造形の3Dプリンタは、3Dプリンタの中でも細かいものが作れます。それでも、画素はこのくらいです。
ホゾの直径0.06 mmは、画素数個ぶんしかありません。それに、できるのは樹脂の部品で、焼き入れした鋼ではありません。3Dプリンタは、部品の形や大きさを確かめる模型や、作業を助ける治具づくりに向いています。
CNC(フライス)だと?
フライスと旋盤は、回すものが逆です。
X1のようなCNCフライスは、刃物を回して、板やブロックを削る機械です。丸い軸は、材料のほうを回す旋盤が向いています。X1が活きるのは、地板・受・文字盤のような板の部品です。
時計の軸は、どうやって作る?
軸は旋盤、というのは分かりました。では、髪の毛より細いホゾを、実際どうやって削るのか。天真なら、こういう流れです(磯崎時計店の記録から)。
- 鋼をもう一度焼き入れして、焼き戻し、硬さをビッカース600にそろえる
- 旋盤で削る。刃物は超硬ではなく、自分で作って焼き入れした鋼のバイト(超硬は切削面が汚くなるため)
- いちばん大事なホゾを磨く。荒く磨いたあと、人工サファイアで仕上げる
- マイクロメーターで寸法を測る
これで1本に最低2時間。磨きのときは、旋盤に軸を磨くための溝つきのドラム(ジャコドラム)を取り付けることもあります(菊野さんの講演から)。
一方で、巻真は「許容誤差もあまく、硬度も厳しくはない」と書かれていました。最初に挑戦しやすいのは、天真より巻真やピンのほうです。
旋盤の種類と、CNC・3Dプリンタとの違い
作り方が分かったところで、そもそもの疑問に戻ります。旋盤には、どんな種類があるのか。ひとことで旋盤と言っても、材料のつかみ方と刃物の動かし方がかなり違います。
| 機械 | 何を回す | 得意なもの | 価格の例 |
|---|---|---|---|
| 時計旋盤 | 材料。コレットでつかむ | 天真・巻真・ピン | 中古6.6万円〜、新品約77万円 |
| 卓上の金工旋盤 | 材料。チャックでつかむ | 太めの軸、ボルト、リング | 14.5万円〜 |
| 精密な小型旋盤 | 材料。チャックのほか、時計用のコレットも | 小さい部品 | 約11.4万円〜 |
| CNC旋盤 | 材料。刃物はプログラムで動く | 同じ丸い部品を何個も | 約39万円〜 |
| CNCフライス | 刃物 | 板やブロック。地板・受・文字盤 | — |
| 3Dプリンタ | —(積み重ねて作る) | 形の確認、治具 | — |
いちばん大きな違いは、材料のつかみ方です。
- 時計旋盤は、コレットという筒で細い材料をつかみます。1本で使える太さの幅は狭いけれど、中心が出やすい(Sherlineは、コレット1本でつかめる幅を±0.02 mmほどと説明しています)。
- 卓上の金工旋盤は、三つ爪のチャックで、細い棒から太い材料までつかめます。PD250なら直径2〜27 mm、爪を逆にすると25〜75 mmです。
時計の細い軸ならコレット、太めの軸やリングならチャック。作りたいものの太さで、合う旋盤が変わります。
10万円以内で買えるもの
時計の軸を削るなら、コレットでつかむ旋盤。では、それは10万円以内で買えるのか。
新品:定番の機種は14.5万円から
| 機種 | 定価(税込) |
|---|---|
| 東洋アソシエイツ Compact3 | 145,200円 |
| 東洋アソシエイツ Compact7 | 193,600円 |
| 東洋アソシエイツ Compact9 | 278,300円 |
| PROXXON PD250 | 321,200円 |
いちばん安いCompact3でも14.5万円。楽天市場で見た中でも12.1万円でした。通販には3〜6万円台の卓上旋盤もありますが、精度の数字が見つからず、時計の部品に使えるかは判断できませんでした。
中古の時計旋盤:6.6万円から
ヤフオクの、2026年4〜9月の「時計旋盤」の落札結果です(本体の出品だけ)。
| 落札日 | 内容 | 落札価格 |
|---|---|---|
| 2026年9月20日 | ARROW(国産)。モーター・ペダル・コレット10本・台つき、回転を確認済み | 66,000円 |
| 2026年8月16日 | GEM。稼働品 | 88,000円 |
| 2026年6月6日 | Wolf Jahn。WW式8 mm | 99,000円 |
| 2026年6月24日 | ARROW。フットペダルつき、動作良好 | 112,099円 |
| 2026年8月1日 | LORCH。WW型8 mm、長いベッド | 121,000円 |
| 2026年4〜9月 | G.Boley。8 mm | 182,000〜203,999円 |
| 2026年5〜8月 | ARROW。コレット多数・モーターつきのフルセット | 198,000〜278,300円 |
中身が説明されている出品では、6.6万円から落札されていました。ただ、同じARROWでも6.6万円から27.8万円まで差があります。値段を分けているのは、モーター、コレットの本数、刃物などの付属品がそろっているかです。
コレットは後から足せます。同じ期間の落札では、8 mmのコレットが1本2,850〜3,300円、10本セットで29,409円でした。中古の旋盤は1台ずつ状態が違い、写真で精度までは分かりません。付属品と、回転を確かめたかを見て選ぶことになります。
少しだけ足すなら:Sherline
アメリカのSherlineの小型旋盤は、本体が758ドル(約11.4万円、送料別)。8 mmのコレット用のアダプターは73ドル(約1.1万円)です。主軸の振れは0.0005インチ(約0.013 mm)以下、電源は100〜240 Vに対応。Sherline自身も「時計職人(clockmakers)や模型を作る人に向く」と書いています。新品で、時計用のコレットも使える旋盤としては、いちばん10万円に近い選択肢でした。
高い旋盤だと、何が違う?
10万円以内だと、中古が中心になります。じゃあ、お金を出すと何が変わるのか。
1. 精度が保証される
いちばん分かりやすいのが、イギリスのCowellsの時計旋盤です。
主軸の振れが、ふつう0.005 mm。天真の許容誤差(0.005 mm以内)と同じ数字です。中古の時計旋盤は精度が1台ずつ分からないのに対して、こちらは検査成績書で分かります。
2. ねじ切り・自動送り・重さ
卓上の金工旋盤は、高くなるほど重く、できることが増えます。Compact9(278,300円)は37 kgで、刃物台の自動送りと、0.4〜2.0 mmのねじ切りの歯車がついています。Compact3は13.5 kgです。東洋アソシエイツはCompact9を「高級鋳鉄製の重量感ある安定した旋盤」と説明していて、重さは削るときの安定につながります。
3. 自動で削る
CNC旋盤なら、刃物の動きをプログラムで決めて、4本の刃物を自動で持ち替えます。KickstarterのApanmeker DL-210は、募集が10月12日まで。紹介記事によると、価格は2,599ドル(約39万円)からで、重さは約103 kg。部屋の机には載りません。
時計の軸を手で1本ずつ作るなら、効くのは精度とコレット。ねじ切りや重さは太い材料を削るとき、自動化は同じ部品を何個も作るときに効きます。
自分の部屋の机に置けるか
置くとしたら、自分の部屋の机です。大きさ(幅×奥行き×高さ)と重さ、電源を並べました。
| 機種 | 大きさ(mm) | 重さ | 電源 |
|---|---|---|---|
| Compact3 | 433×255×230 | 13.5 kg | 100 V・150 W |
| PROXXON PD250 | 575×295×195 | 12 kg | 100 V・100 W |
| Sherline 4100 | 597×267×216 | 10.9 kg(梱包時) | 100〜240 V |
| Cowells 90CW | 500×300 | 22 kg | 220〜240 V(110 V版あり) |
| Compact9 | 700×290×295 | 37 kg | 100 V・250 W |
| Apanmeker DL-210 | 830×600×650 | 約103 kg | — |
Compact3はA3の紙くらいの広さで13.5 kg、PD250は少し長くて12 kg。電源も100 Vで100〜250 Wなので、X1の電源のように1,500 Wを気にする必要はありません。Cowellsは220〜240 Vなので、日本の100 Vで使うなら、メーカーに確かめる必要があります。
旋盤も切りくずは出ます。高専のころ、切りくずと切削油の掃除は結構嫌でした。机の上なら、受け皿とマットは用意したいところです。
自分ならどうするか
10万円以内なら、中古の時計旋盤を、モーターとコレットがそろっているかで探します。最初は巻真やピンのような軸から。天真は、そのあとです。
板の部品はX1で削って、軸は旋盤で。キーキャップの記事で書いた「まず文字盤や外から見える部品」は、X1の担当になりそうです。
参考資料
- 磯崎時計店ブログ「第28話(時計旋盤作業について)」(天真の大きさ・許容誤差・硬さ・作り方)
- 日本時計学会誌 Vol.57 No.208「独立時計師 菊野昌宏氏 講演会」(時計旋盤・フライス・糸のこの使い分け、天真の削り出し)
- キソパワーツール「ヘビーツール一覧」のQ&A(フライス盤と金工旋盤の違い)
- キソパワーツール「マイクロ・レース PD250」(仕様・価格)
- 東洋アソシエイツ「旋盤」(Compact3・7・9の価格と仕様)
- Cowells 90CW Lathe(価格・精度・仕様)
- Sherline 8″ Tabletop LatheとWW & 8mm Collet Adapter(価格・仕様・コレット)
- Formlabs「SLA 3D Printing - How Pixel Size Impacts Accuracy」(光造形の3Dプリンタの画素の大きさ)
- Apanmeker DL-210のKickstarterとGizmocrowdの紹介記事(価格・重さ・大きさ)
- ヤフオクの「時計旋盤」の落札結果(2026年10月8日確認)
更新履歴
- 2026-10-09:初めて公開。